

新たな価値を付け
面的再生の一助となる。

人とまちに寄り添う青森みちのく銀行にとって、地域創生は常に重要なテーマだ。それは地域から託されたミッションとも言えるだろう。浅虫温泉の老舗旅館に、その難題に挑む銀行員がいる。地域資源を生かし、新たな魅力をつくり、再び賑わいを取り戻すために銀行員として何ができるのか。地道な取り組みの先に見えたものは。

温泉旅館の再生から地域創生へ
動き出した浅虫プロジェクト
風光明媚な夏泊半島の基部に、1,200年以上の歴史を誇る浅虫温泉がある。最盛期は30軒近くの旅館が立ち並び、団体客を中心に賑わったが、時代の流れは個人旅行へ。ニーズへの対応に遅れた浅虫温泉はいつの間にか、9つの旅館が営むのみになっていた。
「南部屋・海扇閣」を経営する「南部屋旅館」に工藤が着任したころ、宿は新型コロナウイルスの大打撃を受けていた。その後、旅館は、地域経済活性化支援機構の支援の下、青森みちのく銀行や地元企業と観光地経営会社「MOSPAあさむし共創プラットフォーム」を設立。浅虫の面的再生へ動き出した。
工藤に与えられた使命は、銀行業務のノウハウを生かした経営のフォロー。それは、財務面のみならず、宿泊客の満足度を上げるサービスの拡充や企業価値向上、従業員の労働環境整備にまで及ぶ。「銀行以外の世界で経営の観点を学び、マネジメントの質も上げたいと思っていたので、以前から異業種の仕事には興味がありました。それに、青森の未来に貢献することは、私が銀行員になった目的ですから」と工藤は語る。
「白地図を豊かな地図に塗り替えていきたい」以前、先輩行員に聞き感銘を受けた言葉。それが今回の任務と重なった。

意識の改革を図り
マルチタスク化でサービスの質を向上
工藤の最初のミッションは、従業員の仕事に対する意識を改革し、サービスの質を向上させることだった。
「与えられた仕事だけをやればいい」。長年のうちに出来ていたそんな空気を変えるべく、まずは自ら各部署の現状を知るために現場仕事をすべてやった。そして従業員に持ち場以外の仕事を経験してもらうことで、互いの仕事の大変さや大切さを知ってもらうようにした。そこから従業員が時間ごとにさまざまな部署の業務を行うマルチタスク化を導入。「従業員が “全館を通してお客さまに満足してほしい”という意識に変わり、サービスの質向上につながりました」と、工藤はその成果を語る。
通常、よそ者が指揮を執り、自分の仕事が増えるとなると、従業員からの反発が大きい。
しかし、誰よりも一生懸命に現場で汗を流す工藤の姿を見て、異論を唱える従業員はいなかった。事実、旅館のサービス満足度は上がっており、旅館評価も向上している。それが従業員のモチベーションと工藤へのさらなる信頼につながっている。
「工藤さんは旅館の中心的な存在。従業員と同じ目線で話ができ、とても慕われています。もはや銀行員として接する人はいませんよ」と、小林淳一社長は工藤の活躍を高く評価している。

遠のいた客足を取り戻し
「青森らしさ」を軸にブランディング
工藤の次なるミッションは、「津軽文化発信拠点」をテーマに、旅館や地域一帯をブランディングしていくことだ。2024年4月、「南部屋・海扇閣」は非日常が楽しめる高級旅館というコンセプトのもと、リニューアルオープン。あえて客層を絞り、リピーターを増やしていくという戦略を設定した。
いかに「青森らしさ」を発信していくのか。そのひとつが、ねぶた祭り。ねぶた祭りをはじめ、三味線や津軽手踊りによるステージを毎夜開催し、エリアの見どころを増やすため、公演は他館の宿泊客も受け入れている。ねぶた囃子のステージには青森みちのく銀行の親会社が運営する「プロクレアねぶた実行プロジェクト」のメンバーにも協力してもらっているという。そして、ウェルカムドリンクのリンゴジュースをはじめ、土産品や料理食材などの仕入れには、県内企業との取引や県産品を多く取り入れている。より「青森らしさ」を取り入れるにあたり、工藤が銀行員として培ってきた人脈が生かされている。それは青森県内にもいい循環をもたらしている。
リニューアルに際しては、館内備品やお客さまの館内着、アメニティ一つに至るまで踏み込んでブランディングをサポート。その選定に工藤が関わっていることも、会社から厚い信頼を得ている証だろう。「お客さまに満足いただけるサービスの提供や、県産品のマッチングは、われわれ事業者だけではたどり着けないものでした。工藤さんがいたからできたのです」と小林社長。
現在、宿泊者の8割は県外で、そのほとんどが関東方面だ。中には、1年間で複数回というリピーターもいる。「お客さまの満足度を高め、また足を運んでいただく。それを積み重ね旅館の存在価値を上げることが、浅虫温泉の知名度アップにつながるはずです」(工藤)。
最近では、浅虫温泉に人が戻ったことで、地域に飲食店がオープンするなど活性化の兆しも見えてきた。一企業の再生を、地域の面的活性化につなげる。その経験は銀行の仕事だけでは得られない面白さだ。


- 株式会社南部屋旅館
経営管理室長 - 工藤 耕平 Kudo Kohei
- 2000年入行

- 株式会社南部屋旅館
代表取締役社長 - 小林 淳一 様 Kobayashi Junichi