#04
函館で初の蒸留所を設立。
歴史あるこの街に新しいウイスキーを根付かせたい

ウイスキーブランドオーナー 澤田 凌さん

ビハインド・ザ・カスク合同会社 代表

澤田 凌さん Ryo Sawada

大阪府出身。ワインやウイスキーを扱う商社に務めた後、飲食店でバーテンダーソムリエを経験。2015年に渡仏し、ボルドー大学でテイスティング学を学ぶ。帰国後の2017~19年は北海道内のウイスキー蒸留所に勤務。2020年、ビハインド・ザ・カスク社を青森市で創業後、2022年に函館市へ移転。市内で新事業としてディ・トリッパー蒸留所を創設し、道産大麦モルト100%を使ったウイスキー作りに取り組んでいる。

10億円かかる蒸留所はとうてい無理だと思っていた

ビハインド・ザ・カスクは、我が社の社名でもあり、ブランド名でもあります。若い頃からお酒に関する事業に携わる中で、ウイスキーの自社ブランドを立ち上げてビジネスをするのが長年の夢でした。

そこで2020年、製造は行わない代わりに、国内外にある蒸留所から原酒を買い付けて独自にボトリングし販売するボトラー事業として、ビハインド・ザ・カスクを青森市でスタートさせました。

事業所を函館に移したのはその2年後です。欧州のように落ち着いた街の雰囲気がすっかり気に入り、昔から洋酒文化が根付いているわりにはウイスキーの同業者がほとんどいなかったことも大きな理由でした。

ただ当初は、「ここに蒸留所を作ろう」とまでは考えていませんでした。ウイスキーの場合、一通りの設備を揃えようと思えば初期投資10億円は見込まなければなりません。リスクも考えると、とても自社の規模では実現不可能です。「蒸留所なんて夢の夢、憧れにとどめておこう」と考えていました。

クラウドファンディングで目標額の10倍超を達成

転機がめぐってきたのは、新天地の函館に移転してまもない頃です。周囲から「蒸留所をやってみないか」「澤田さんならやれる」という声をいただくようになったのです。加えて、市内の老舗ワイン醸造所が移転のため、蔵がまるごと空き物件になる予定で、買い手がついていないという好条件も重なりました。折しも翌2023年は日本にウイスキーが伝わって100年目。どこか運命的なものを感じ、蒸留所の開設を決意しました。

青森時代から函館移転後も継続してお付き合いしている青森みちのく銀行さんからお話をいただいたのは、蒸留所創設のプランを具体化しようとしていた矢先のことです。函館営業部の担当だった赤平さんと議論を重ねていくうちに、設備の規模や生産量、人員を最小限にとどめることで資金面の見通しが立ってきました。

商談を進める中で心強かったのは、銀行さん側からクラウドファンディング会社をご紹介いただいた点でしょうか。想像以上にスムーズにサイト開設までこぎつくことができ、結果的には目標額だった600万円を大幅に上回り、酒造部門北海道エリアで歴代第一位の6300万円あまりの支援総額を達成できました。

この業界に入った頃から密かに抱きつつも、とうてい無理だと踏んでいた蒸留所設立という夢が徐々に現実になってきました。

青森みちのく銀行コメント

圧倒的な差別化のために蒸留所設立をご提案

函館営業部 赤平 涼
ビハインド・ザ・カスクさんが函館に本社移転してこられて、最初に函館営業部の担当としてお会いしたとき、ボトラー事業のビジネスモデルに対して非常に興味を持ちました。一方で長期的な課題として事業への付加価値をつける必要があると考え、蒸留所の創設をご提案し、事業計画の策定から融資・クラウドファンディングのご紹介を含めた資金調達まで、全面的にバックアップさせていただきました。すでに蒸留所の場所が確保できておりプランの実現性が高かったこと、澤田社長の熱意が詰め込まれた原酒をはじめ、魅力的な返礼品を揃えられたことなどがクラウドファンディング成功、ひいては蒸留所設立成功の要因だったと考えています。

1年熟成でも美味しいモノが必ず作れる

2023年11月、当社は函館市内にディ・トリッパー蒸留所を創設しました。創設にあたって心がけた点が3つあります。

まず、国内最小規模の蒸留所であること。蒸留所をはじめ、様々な業務をほぼ私一人(もしくは数人)で担うことで、運転資金を最小限にとどめつつ、ハンドメイドかつ最小ロットで作るウイスキーというスタイルを確立したいと考えています。

さらに、北海道中標津町産大麦モルト100%を使った原料であること。輸入大麦を使うケースが多い中で、純道産は高い付加価値を生み出すことができるはずです。

そして、1年熟成であること。ウイスキーといえば熟成年数が注目されますが、長年この業界に携ってきて若い原酒と触れ合う中で、1年でも十分おいしく作れる確信がありました。2025年にはディ・トリッパー蒸留所の第一弾となるウイスキーたちがここから全国へ旅立っていく予定です。

ゆくゆくは函館で大麦を生産し、純函館産ウイスキーで世界に評価されたいと思っていますが、そのためには青森みちのく銀行さんとの連携も欠かせません。これまで築いてきたパートナーシップを軸にしながら、歴史あるこの函館の地で新しいウイスキーを根付かせていきたいと思っています。

青森みちのく銀行コメント

地場産業、ひいては地域を元気にしたい。
そのために創業後も、パートナーとして伴走を続けます。

函館営業部 赤平 涼
本来、ウイスキーは3年程度の熟成が必要だと聞いていましたが、ビハインド・ザ・カスクさんが1年熟成での商品化を打ち出されたのは、資金繰りの面でも大英断だったと思っています。
本件の支援にあたっては融資を始め、クラウドファンディングや補助金など多方面で支援することができました。また、プロクレアHD地域共創ファンドを活用した出資も行っております。引続き当社と伴走しながら、当社の発展ひいては地域産業の活性化に努めてまいりたいと思います。